スマリッジ_婚活

遠吠え男子 3話

遠吠え男子 3話

【連載シリーズ】遠吠え男子

【連載シリーズ】遠吠え男子

遠吠え男子、ダメ出しされる

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Tは、かなり狭い範囲で結婚相手の条件を登録していた。

お相手の希望年齢は20~24歳、地域は東京在住のみ、共働きで育児家事分担。
※再々掲するが、Tは30代後半である

「いや、あのね。相手の女性からしたらさ、君を選ぶメリットって何だと思うのよ」
「メリット…?うぅ~ん…それは正直考えてなかったですね」

それはそうだろう。
HさんはTの困惑している顔を見ながら内心思った。

「だってさ、自分が20代前半の女子だとしてよ?
共働きで家事育児も分担が条件の30代後半男性を選ぶ?
それだったら経済力があって共働きをしなくても良いよって言ってくれる男性と
比較されたときに勝てないんじゃない?
というか、20代前半女性なんてほぼすべての男性会員が希望するし、婚活市場でもっとも競争率高いんだからこっちも選ばれるだけのスペックないと厳しいでしょ。
もちろん絶対無理とは言わないけど、まずはお互い条件で相手を絞るでしょ?
相手に選ばれる土俵にも乗ってなかったら試合すらできないよ」
一気に言ってからTの顔を見るとズーンと明らかに落ち込んでいた。

あらら、急にダメ出ししすぎてへこんでしまったかしら。

「そんなあ…」

そこへまた後輩女子Sが通りかかる。
毎回奇跡のようなタイミングだ。
手にはカフェでテイクアウトしたコーヒーのカップを持っている。
「Hさん、Tさん、お疲れ様でーす」
「おつかれ~」

「お話聞いてましたけど、」
SはずいっとTに近づいて言った。
「前にも言いましたよね?Tさんだって選ばれる立場なんだって自覚しないとですよ」

今日も切れ味するどい。

「20代女子として言わせてもらいますけど。
まずは清潔感が大事だと思います。
Tさん、プロフィール写真に自撮りの写りが悪い写真登録してたりしないですよね?」
「…なんでわかるの?」
「やっぱり」

Sの指摘通り、Tはプロフィール写真に自撮り写真を登録していた。
とりあえず登録しておけば良いやと、スマホでパッと撮っただけのものである。
もちろん表情はない。真顔だ。
一部顔に影が入って顔もよくわからない。怖い。

「ちょっとこの写真見てください。どう思いますか?」
そう言ってSが取り出した写真には、女性がひとり真顔で写っている。
服装はよれよれのパーカーに眼鏡、髪型もひとつに結んだだけで前髪はぼさぼさである。
そして自撮りで全体的に写真が暗く表情もない。
眼鏡にフラッシュが反射して、目元も少し見えづらくなっている。

「うーん、ちょっと怖そうだから自分はあまり仲良くできないかな…」
「じゃあこっちは?」

2枚目の写真では爽やかな笑顔で背景に緑が入った女性が写っていた。
服装も華やかなパステルのワンピースのようだ。
先ほどの写真とはまるで印象が違う。

「すごく素敵だなと思う・・・というかこれSさん?」
「はい、私モデルのお仕事もしてるので。写真はどちらも私です」
「ええー!」

驚いたことにSは撮影スタジオでプロフィール写真のモデルをしたことがあるそうだ。
これにはHさんもTもびっくりである。

「それにしても、最初の写真もSさんなの?まるで別人みたい」
「そうですよ。それくらい写真ひとつで相手の印象って変わっちゃうんです」

これは説得力がある。
Tは自分の登録したプロフィール写真を見返してみた。


「うわあ、改めて見ると真顔怖いな…誠実さのかけらも感じられない」
「まずは相手にきちんとした人だなって印象を持ってもらった方が良いです。
たかが写真とか思ってると、相手の人に選んでもらう機会を逃しちゃいますから」
「S先生、ちなみにおすすめの写真スタジオとかありますか?」
「もちろん!」

Hさんもそこで口を開く。

「もうちょっとさ、条件を緩めてみたら?
20代前半は絶対に譲れないの?」
「そんなことはないです、正直自分より年下であれば良いかなって。」
「じゃあそこは30代半ばまでに修正ね。地域も別に関東なら会える距離じゃない?」
「たしかに」
「じゃあ地域は関東まで広げよう」
「わかりました」

「あと絶対譲れないところとかある?」
「そうですね~、顔ですかね。」
「はい?」
「好みの顔がありまして。合わないとなんか違うな~って」
「えっと、それは別に芸能人レベルを求めているわけじゃないよね?」
「いやいやそこまではさすがに。ただ、しいて言うなら〇田えりかとか〇原さと〇あたりみたいな感じですかねぇ。
でもなかなか良いなと思える人がいなくて」
「…」

Hさんは頭を抱える。
こいつは何を言ってるんだ?
後輩女子Sですら、横でドン引きしている。

「…それは本気?」
「?はい、そうですけど」

どうやらTの理想はかなり高いようだ。
結婚したいしたいと言っているあいだに理想だけがどんどん高くなってしまったのだろうか。
もちろん理想を追求することは構わないが、お相手を見つける難易度もぐんと上がる。

「悪いことは言わないから、その条件だけは譲ってくれ」
「私からもお願いします」
HさんとSのふたりから詰め寄られるT。

「ええ〜…うーん。…そこまで言うならわかりましたよ」
「ありがとう!」
心からホッとしたHさんとSのふたりは顔を見合わせうなずく。

「まずは写真を撮りにいこう。あとはプロフィール見て気になる人いたらまずは会ってみるべし」
「わかりました。とりあえずプロフィール書き変えます!」

よかった、とにかくまずはよかった。
今日話を聞かなかったら、Tはこれからも結婚相談所で〇田えりかや石〇さとみを追い求めていたのかもしれない。
そう思うとゾッとする、とHさんは身震いした。
「どうしました?風邪ですか?」
それを見てTがHさんに声をかける。
「いや、なんでもない。婚活うまくいくと良いね」
「はい!見ててください!」

なんともまぶしい笑顔で返事をするT。
へこたれない性格も、Tの良さのひとつである。

そしてさらに数日後

「Hさん!!」
「うわ!」
廊下から室内に入ろうとしたところで待ち構えていたTが急に声をかけてきた。
心臓に悪い。

「ちょっと脅かさないでよ…!」
「すみません、どうしても報告したくて」
「いったい今度は何?」

「僕、今度お見合いすることになったんです!!」
「ええ〜!?」

▶4話につづく

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