遠吠え男子、ついに始動
次の日
職場がざわついていた。
「ええ!!!本当に?」
「はい、やってやりましたよ」
いつにも増してドヤ顔のT。
「すごいじゃーん!良いね、ついに登録したんだ!」
なんと、Tが結婚相談所の会員に登録したらしい。
ここぞとばかりにドヤ顔が鼻につくが、Hさんは彼のやる気を削がないように褒めちぎった。
「すごいすごい!」
「今までの僕とはひと味違いますよ、早速プロフィール登録もしましたから!」
これまで全く結婚に向けて動かなかったのが嘘のようだ。
昨日の今日でまさか本当に結婚相談所に登録するとは。
「ちゃんと写真も登録した?」
「もちろんです!」
たしかに昨日までの彼とは違う。
Hさんは感心してしまった。
「へぇ~、やるじゃん。誰かと会うことになったら教えてよ」
「もちろんです!」
遠吠え男子の笑顔がまぶしい。
早く嬉しい報告を聞けたら良いな、とTを見るHさんの眼差しはまるで保護者だ。
Hさんは思った。
これで本当に結婚まで辿り着いたら何もいうことはない。
Tが幸せになれることを願おう。
数日後。
Tは明らかに落ち込んでいた。
これは婚活で何かあったな。
「・・・はぁ」
Tが話を聞いてほしそうにちらちらとこちらを見ている。
Hさんはすぐに彼のいつもと違う様子に気付いたがあえてそっとしておくことにした。
が、しかし。
Tのため息はどんどん大きく長くなっていく。
「ふぅ~」
「はぁああ・・・」
「ふい~」
ため息のレパートリーをいくつか持っているようだ。
おまけにちらちら見てくるのもやめないので非常に気になる。
彼はちゃんと仕事してるんだろうか?
そう思って手元を見るとちゃんと動いている。
いったいどうやってるんだ、不思議だ。
…不本意だが話を聞いてやろう。
「…何?」
「聞いてくれますか先輩」
「うむ、聞いてやろうじゃないか」
「ありがたや」
どうやら登録した結婚相談所でひとりもマッチングしないまま10日が経過したらしい。
「それはたしかに落ち込むね」
「そうなんですよ…何がいけないんだろう…」
「どんな人をお相手に希望してるの?」
「ええとですね…」
Tはスマホを開くと、結婚相談所のプロフィール画面を立ち上げた。
スマホにはTの大好きなご当地キャラクターのストラップがぶら下がっている。
この前まではなかったものだ。
先日も趣味のバイクにまたがり道の駅巡りをしたらしいので、その時にでも買ったのだろう。
さてさて…とTの読み上げたプロフィールにHさんは驚いた。
「希望の年齢は20~24歳で」※再掲するが、Tは30代後半
「え?」
「地域は東京限定」
「ええ?」
「子育て、家事は協力するので共働きが良いです」
「マジか」
HさんはTの顔とスマホを交互に見る。
どこから突っ込んだらいいものか。
Tのきょとんとした顔を見て、Hさんは呆れて何も言えなくなる。なんてことはなく。
「いやいやいやいやちょっと条件厳しすぎるんじゃない?」
「そうですかね?」
「そうだよ、だって…」